早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会 2020年度
早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会 2020年度
2015年から、伊藤が専門幹事として研究会全般の設計や当日の進行役を担当している、
早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会(以下、部会)。
部会は一年間・全5回の研究会が中心となっており、最終的には一年間の研究結果を論文の形でまとめます。
詳しい内容や過去の論文はこちらから。
https://www.waseda-manifesto.jp/jinzaimanagement
今日は、設計者・進行役の視点から2020年度部会の内容を振り返り、次年度に活かすため気づき・学びを整理します。
ご相談頂いた課題 | ① 職員の努力を、地域の成果へとつなげられる自治体をどのように実現するか ⇒ 組織課題。さらには、② 生活者起点で発想し、関係者と共に未来を創っていける職員をどう育てるか ⇒ 人材課題。この2つの課題解決に挑む自治体職員の、研究のサポート役が幹事となります。その中でも、組織・人材課題解決の専門家として任命されているのが専門幹事であり、伊藤の役割となります。 |
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私たちのサポート | 専門幹事として、部会運営全般に関わり、とくに研究会の企画・進行や、参加者からの個別具体的な質問に対するアドバイスやコーチングを担当しています。2020年度は、部会全体のオンライン化が必要となり、その実施主体となって取り組みました。 |
どう、オンラン化するか?
2020年度は、zoomやteamsを活用したオンラインミーティングが一気に広がり、オンライン上のコミュニケーションが日常化した年でもありました。
部会は「対話(dialog)」を大切にしていて、全国から参加する自治体職員が入り交じり、自分と相手の思いに耳を傾け、目的・意義・意味に関する話し合いを重ねていきます。そのような話し合いでは、ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションも重要であるため、これまではリアルな場に最大200名以上が集まり、グループことに対話を重ねていくことが前提となっています。
しかし、コロナ禍において、3密(密閉、密集、密接)を避けることが求められ、これまでのやり方ではできない状況となりました。
そこで、急速に利用者が増えつつあったzoomを活用したオンライン化の道を模索しました。
一口にオンラインといっても、実際には様々なやり方があります。
- リアル+オンライン 講師と参加者がフィジカル空間(リアルの場)に集まり開催する形式。五感を使った、非言語も含めたコミュニケーションが取れるリアルのメリットを享受しつつ、UMUなどの学習支援プラットフォームを活用し、共有・分析が容易であるオンラインのメリットも盛り込んでいく。
- 講師リモート 講師はリモートで。参加者はリアルの場に集まり開催する形式。講師が現場の雰囲気をつかみにくいというデメリットもあるが、カメラやモニター、音声などの機器を十分に準備できればリアル以上に現場の雰囲気をつかめることもある。
- オンライン(非同期) 動画配信やチャットなどを活用し、講師と参加者がそれぞれのタイミングで発信・受信できる事がメリット。昔からあるe-Learningをはじめ、YouTube・Slack・UMU、さらにはLINEやfacebookなどのSNSも含めると、無料で使えるプラットフォームがたくさんあり、様々なパターンが生まれている。
- オンライン(同期) 講師と参加者が、オンラインミーティング用のプラットフォーム(zoom・Webexなど)を活用して同時にコミュニケーションをとりながら進める形式。非同期よりも双方向性を生みやすい。
- その他 オンライン(同期)とリアルで参加できるようにして、様々な参加者ニーズに対応しようという試みもある。しかし、リアルとオンラインをつなぐのが難しく、特にオンラインの参加者が不便を感じやすい(リアルの場の複雑な対話が聞き取れず、疎外感を感じるなど)。
一年間の活動を進める中で、これらすべてのパターンを検討しながら進めてきました。
できれば直接会って(リアルで)対話してほしいとの思いから、1や5も検討しましたが、結果として3と4のみとなりました。
※参加者が自主的に開催した研究会では、幹事団がリアルやリモートで参加する1や2のパターンもありました。
オンライン化の難しさ、事務局のすばらしさ
オンライン(非同期・同期)で部会を進めていく。
そう決めて動き出したものの、たくさんの障害が行く手を阻みます。例えば、次のようなことです。
- Webカメラ付きの端末(パソコンやタブレット)を一人一台準備できない。
- 通信回線が遅く、固まったり落ちたりしてしまう。
- オンラインのコミュニケーション(バーバル中心、ローコンテクスト)に慣れていないため、うまく対話できない。
- パソコンやタブレットの操作に慣れていないため、話し合う前の段階でつまずいてしまう。
- 安全性の観点から、特定のサイトにアクセスできないようになっていて、YouTubeやSlackにアクセスできない参加者がいる。
このような課題一つひとつと真摯に向き合い、解決に向けて取り組んでくれたのが事務局のメンバーでした。
私は企画や進行を担う立場なので、どちらかと言うと目立つ位置にいますが、
裏方として参加者や幹事団をサポートしてくれた事務局メンバーが最大の功労者であり、
それがなければ部会のオンライン化は成し遂げられなかった。そう感じています。
プロデューサー業務
事務局は、zoomによるオンライン(同期)の場において、プロデューサー(ディレクターとも呼ぶ)の役割も担ってくれました。
オンラインミーティングにおけるプロデューサーとは、
- ブレイクアウトルームの設定、実行、トラブル対応
- チャットのサポート(講師の話をまとめてチャットしたり、参加者の質問への返答を講師の代わりに行ったりする)
- 画面キャプチャーや録画など、参加者が後日振り返る上で役立つ情報の保管・共有
- スライドやホワイトボードなどの画面共有サポート
- 音声ミュート画像のオンオフ。話し手にスポットライトを当てるなど、見せ方・聞かせ方のサポート
- これら全体の動きを把握するための進行表作成
などを担ってもらう人です。
参加人数が増えるほど、その必要性は高まります。
リアルからオンラインへと急速に舵を切れたのも、事務局メンバーがプロデューサーの役割を担ってくれたからです。
繰り返しになりますが、先の課題解決や、プロデューサーのような新しい役割を担ってくれた事務局の存在なくして、部会のオンライン化は実現しなかった。そう実感しています。
オンライン上でのコミュニケーションを活性化するためには?
部会のオンライン化を進める中で「オンラインのコミュニケーションに参加者が慣れていない」という課題があったというのは先述の通りです。
この課題に対し、いろいろな手を打ちました。
オンラインコミュニケーションにおける、
話し手
聞き手
場づくりする人(プロデューサーや進行役)
の3つの視点から、どのようなことが大切なのか?どうすればよいのか?について、簡単に解説しています。
部会の活動、参加者への期待
第5回研究会において、幹事団の対話セッションがありました。
その際、進行役の加留部幹事から
「伊藤さんは専門幹事として、参加者に何を期待していたのですか?」
という問いを投げかけられました。
その問いの答えとして示したのが、この「管理強化」が引き起こすネガティブループという図です。
今年は自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれ、手続きのオンライン化やリモートワークに取り組む自治体もたくさんありました。
しかし、自治体によっては安全性・リスク管理の観点から、リモートワークする人への管理(監視)システムを導入するようなケースもありました。管理(監視)の強化は、内発的動機を減衰させてしまいます。
そうした経験を踏まえて考えを整理する中で生まれたのが、このループ図です。
少子高齢化が進み、自然災害の頻度・脅威が増す中で、ますます自治体の経営は複雑で高度になっています。
その複雑・高度な課題解決には、人材育成・組織開発が欠かせないわけですが、
そのような中長期的に見て大事だがすぐに成果が出にくい取り組みよりも、
手っ取り早く課題が解決したように見える「管理(監視)を強化する」という手段が取られることが少なくありません。
また、この「管理強化」は、明治維新後の政権樹立から近年に至るまでの中央集権・地方分権時代においては王道であり正解でした。
上からやるべきことが降りてきて、それ通りに忠実に動くことが地方自治体に求めれた時代においては、それが正しい手法でした。
そのため、この手法が正解だと認識され、それが管理者の役割だと思い込み、管理を強化し続けることで職員の内発的動機を減衰させてしまう状況がいまだに存在します。
管理から、委任・対話へ。ポジティブループを創りだすために
複雑で高度化した課題を解決するためには、人の持つ創造的で主体的な力を引き出す必要がある。
そのためには、管理(監視)による外発的動機付けではなく、委任や対話によってもたらされる内発的動機付けが欠かせない。
これは、近年の様々な研究の中で指摘されています。
部会参加自治体が、
旧来型の効率・安全性重視の官僚型組織から、
新しい時代に求められる創造・革新的課題解決を実現する組織へと変化していく。
そのために部会があり、幹事団が存在しています。
部会は来年度以降も続きます。
今年はオンライン化という手段にも多くの投資を必要としましたが、あくまではそれは手段の一つです。
部会本来の目的・狙いを実現するために、より成果・結果を意識しながら来年度も取り組んでいきます。